備後尾道 柿渋商店

瀬戸内地方で昔ながらに柿渋を手作りしています

蔵でのフォーラム


地域遺産フォーラム第三回に、柿渋を取りあげていただきました。関係者の皆様、本当に色々ありがとうございました。

基調講演として冒頭30分ほど私どもの柿渋の活動の現状をお話させて頂きまました。その後の質疑などあわせて、もう少しこう言えたら良かったという反省しきりでございました。こう言えたら良かったことなどを、また随時こっそりアップしていきます。

質問1 良い柿渋とは?品質表示などはないのか?

答え うーん、、良い柿渋とはなんでしょうね??

柿渋は、一般的な科学的工業製品よりは、野菜果物に近く、これは、美味しいみかんとは何か?品質表示などはないのか?というふうに置き換えて考えられるように思います。みかんに糖度があるように、柿渋にもボーメ度という濃度があり、私どもの柿渋は3から3.5度に調整して出荷しています。これは塗装や染めにそのまま使える濃度です。使うときに好みで水を足して薄める人もいます。これより度数が高いと粘度が高くドロリとした感じで、固まってしまいやすいです。とはいえ、みかんの美味しさも糖度だけではないように、柿渋の品質もボーメ度だけではないような、、あと柿渋は、発酵度合いもあるかと思います。漆の職人さんでは、五年以上熟成した柿渋でないと下塗りに使わないとか、こだわりのあるかたもいらっしゃるそうです。絞りたての青い柿渋でも塗りにも染めにも使えますが、絞りたての液は、発酵が盛んで泡がたち、容器からあふれたりします。それが落ち着く数ヶ月後位から販売するのが一般的かと思います。まだ若い柿渋だと、匂いがきつかったり、色が出にくいなどもあるようにも思います。私どもでは在庫状況から、1、2年たった柿渋を出していますが、なにしろ、適当に良いかげんで厳密ではないもので、このあたりも今後の研究課題ですね。

良い柿渋とはなにか? 作り手の愛情たっぷりなのは当然として、なにか、客観的数字などデータで示せるものなのか、違うのか、今後も考えていきたいと思います。良いご質問をありがとうございました。

質問2  どうして柿渋をやってるのですか? もうかりますか? もっと大きく手を広げないのですか?  

答え 柿渋づくりを始めたきっかけは、地域最後の工場がなくなると聞いたことです。それから、当時の当NPO ぬまくま民家を大切にする会の渡辺理事長が中心となって、そりゃあ、残さにゃいけん、我々で引き継ごう、ということになりました。はじめは地域の企業で引き継いでくださるところを探したのですが、やはりなかなか難しく、どこもダメで、それなら、と。二十代に東京で会社員をしていたときには想像もしていませんでしたが、自分には天命だったのだろうと思います。

もうかりません。経費は出てますが、ほぼボランティアです。2013年に始めて、7年めの2019年に、私は、おそるおそる、販売手数料として十万円を頂きまして、仏壇にお供えしました。ありがたく。。柿渋販売で年収十万円を達成です。支えてくださる皆様のおかげです。本当に。それ以外に、私個人としては、いろいろな素晴らしい方との出会いやお付き合いができて、お野菜やイノシンのお肉をいただいたり、貴重なお話を伺うこともできたりと、たくさんの豊かな恩恵をいただいていて、本当に感謝しています。お金ももちろん大事ですが、この資本主義社会の行き詰まりのなか、なんというのか、お金の重要度の少し下がった場所で暮らしを成立させてもらっています。個人的な生計は、私は塾講師や事務のアルバイト、他の方々は、年金や農業、大工左官などの本業です。資本主義的なビジネス的な考えだと、柿渋はなかなか難しいのかなと思います。市場も人口減少とともに縮小傾向ですし、工場の機械も古いので、いつどんな不具合になるかもわからないですし。でも、やりたいのでやります。大変ですけど楽しいし。

大きく手を広げるつもりも全くありません。できるだけ、小さくやりたいです。作る人もお客様も皆お互いに知り合い、友人同士、というような感じが理想です。なんというのか、例えばブームに乗ってたくさんの知らない方に広く一度売ってそれだけ、、というような感じより、狭く小さく、近所のあそこのお宅は毎年春に板塀をうちの柿渋で塗り直してくださるのよね、あそこのお宅は奥様が洋裁得意で、いつも柿渋染めした素敵な服のリメイクされて、あそこのお父さんは漁の網の染め直しに柿渋を使ってくださって、、みたいな、作るのにもお客様の顔が浮かんで張り合いあるし、使ってもらうにも、もし不具合あったら文句も遠慮なく言ってもらって、駆けつけて対応するし、みたいな、なんというのか、地域の中で、暮らしのお役に立って喜ばれて、、というようなあり方が理想的だと思っています。

守りたいのは、柿渋のある暮らしと文化なのです。自分たちで大事に手入れする家や庭があり、少しシミのついた古い布とかモノでも簡単に捨てないで、柿渋染めや塗り直しをして見事に再生するとか、竹ザルを一貫張りしてよみがえらせて、また大事に使うとか、そんな、少し昔は当たり前だった、地球にもお財布にも優しい、こまめに体を動かして、自然と共存しながら、ものを大切に、生活の中で実用的な美しいものを生み出していくような暮らしと文化です。柿渋は、昔はどこの家でも縁の下の壺に自家製で作っていたそうですから、そうなると一番いいのかな、とも思います。柿渋も、野菜と一緒で、各地域でその地域にあった柿や作り方が色々あったのではないかと思います。それらがみんな、それぞれの地域で受け継がれていくことを願っています。私たちの豊かな現在と未来のために。


kanae3 • 2020年2月25日


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